東京高等裁判所 昭和27年(う)2102号 判決
被告人 鈴木フミ
弁護人控訴趣意第一点(事実誤認、法令適用の誤)について
児童福祉法第三十四条第六号に定める「児童に淫行をさせる行為」とは、同法第四条所定の満十八才未満の児童の淫行に直接間接又は積極消極に原因又は影響力を与える行為を広く包含し淫行を強要し又は勧奨する等直接的又は積極的な場合はもちろんのこと、児童を自己の店舖に雇入れて住込ませ、淫行のための一定の揚屋その他の設備を提供する等間接的又は消極的にもせよ、児童の淫行に原因又は影響力を与える行為も亦右の児童に淫行をさせる行為に該当するものと解すべきである。
原判決挙示の証拠によれば、原判決摘示のように、被告人が原判示カフエーを事実上営んで居る者であり、右店舖において女給として雇入れた満十八才未満のT子及びC子をして原判示の期間売淫をなさしめ、対価の五分を取得した事実は優にこれを認めることができ、右事実は前記説明の理由によつて、児童福祉法に「児童に淫行をさせる行為」に該当することが明らかであるから、原審には何ら所論の事実誤認又は法令適用の誤はない。
尤も、児童福祉法が所論の児童虐待防止法の流れを汲んでおり児童福祉法第六十条第三項に「児童を使用する者は児童の年令を知らないことを理由として、前二項の規定による処罰を免れることができない。但し、過失のないときはこの限りでない。」との規定があることは所論のとおりであるが、右の規定にいう「児童を使用する者」には所論の使用従属関係がある場合は勿論のこと、たとえ使用従属関係が認められない場合でも、前記説明のような児童に淫行させる行為を為す者がこれに該当することは、児童福祉法第三十四条第一項が使用従属関係を前提としていない場合をも包含する趣旨と解せられ、同法第六十条第一項第二項がその違反に対する罰則を定め、右第三項はその補充的な規定であることから見て明らかである。これを本件について見ると、原審の前記確定した事実によれば被告人は原判示児童二名を女給として自己の店舖に雇入れ、売淫を為さしめたというのであるから、右第六十条第三項の使用者に該当することはいうまでもなく、所論の使用従属関係があることも亦これを認めるに十分である。蓋し、右の使用従属関係とは使用者と被使用者との間に自己の店舖に雇入れ住込ませ自己の営業に使用する等雇傭契約に類する事実上の関係があるをもつて足り、右契約が私法上有効な雇傭契約であること必要としないものと解すべく、被告人の右雇入、揚屋の提供並にカフエー営業の内容たる売淫に児童を使用した事実関係は、たとえ私法上有効な雇傭契約といえないにしても、その外形を備える行為であつて、使用従属関係ありと解するに何らの妨げもない。従つて被告人が右児童の一々の売淫行為に強制を加え、干渉を為す等積極的な行為を為すことなく、児童の自由に任せたとしても、被告人の罪責に何らの影響がないものと解すべきである。所論の下請、生命保険代理店、大工、同居の親族の場合は本件に適切ではない。又我が国における公娼及び私娼制度の沿革、終戦後の公娼制度の廃止並びにこれに関連する風俗対策が所論のとおりであり、所論「赤線区域」における私娼が黙認せられており、本件は「赤線区域」内の被告人の営業行為の一部に関するものであり、被告人が、前記児童の自由を拘束したことがなかつたとしてもこれ亦被告人の罪責に何ら影響がないものというべきである。
結局、原判決の弁護人の主張する判断はすべて正当である。
従つて論旨は理由がない。